hirayama46の日記

とりとめもなく書いています。

秋月涼介「月長石の魔犬」

月長石の魔犬 (講談社ノベルス)

月長石の魔犬 (講談社ノベルス)

 中途半端に立っているキャラクター。状況だけは魅力的ながらもそれを膨らませる事が無い事件。そのうえに拍子抜けといってもいい真相。時折悪いセンスが散見されるルビ。幾つかの放り投げっぱなしな設定。正直言ってマイナス部分が多すぎると思います。
 ……でも、なんとなく面白いんですよ。本当に不思議。絶対この人は腹に一物あると思うんですよね。それを垣間見るまでは読むのを止められません。*1まあ、デビュー作なのに抑制しすぎだとは思うのですが。
 興味深かったのは、例えば以下の記述。

 ――冴葉先生か。
 そういえば、青紫も先生と呼ばれていた。相沢や葉子も先生だし、草加も勿論先生だ。
 ――何だか、先生だらけだ。

 この文章の背景を説明すると、本書には「殺人鬼を殺し続ける殺人鬼」が登場し、その人物は「先生」と呼ばれていることが読者に提示されています。実はその正体はミステリ慣れしている人にとっては早期に予想できます。
 つまりその状況で上記のモノローグを入れる事で「犯人の招待なんてだれであってもおかしくはないし、意外でもないのだ」と解釈することができると思います。*2
 しかし、何でこの人がファウストに書かないのか不思議です。作風がぴったりなのに。

*1:幸運にも?続編が出版されていますし

*2:自分でもやや好意的すぎるかな、とは思いますが。