hirayama46の日記

とりとめもなく書いています。

小林泰三「忌憶」

忌憶 (角川ホラー文庫)

忌憶 (角川ホラー文庫)

 祥伝社の400円文庫から出ていた中編に、書き下ろしの短編ふたつをプラスして1冊にしたもの。分量的にも*1内容的にも文句の無い逸品でした。祥伝社版を読んだひとも是非に。
 個々の作品の感想を手短に。
 
「奇憶」は再読。やはりこのダメ人間描写は半端じゃないぜ……。再読して思ったのですが、この主人公は何も考えずに行動して失敗し続けているわけではなく、彼なりに*2思考して行動して、それでいて手痛い失敗を繰り返しているのです。それが何故だか妙に心に刺さりました。まあ、当たり前といえば当たり前なのですが……。
「器憶」は腹話術と精神存在についての物語。冷静に考えればチープだったりする展開を緊張しながら読ませる技術が光っておりました。オチも極めて小林泰三らしくて良かったです。
「垝憶」は本当にすさまじい小説でした。「博士の愛した数式」のように短期記憶しか出来なくなってしまった男の物語なのですが、それを一人称で書き、違和感のないものにしているのがおそろしいです。読んでいてぐらぐらと現実がゆらぐような気持ちになりました。最高傑作級。*3

*1:中編よりも書き下ろしの方がページ数が多いくらい

*2:あくまでも、彼なりに、ではあるけれども、ぼくだって「ぼくなりに」しか考えられないのです。

*3:さいきん本家本元では使われていないような……。